普門品で退けた四谷の通り悪魔
どんな伝承か
『世事百談』の「通り悪魔の怪異」に載る話として円了が引く。四谷のあたりが火事になった後、焼け跡の仮住まいに住む某の妻が、夫の留守に縁先で煙草をのんでいた。土台だけが残り草が生い茂る中を、腰の二重に曲がった白髪の老人が杖にすがり、よろぼいながらにこにこして近づいてくる。ただならぬ顔色で怪しさは言いようもない。心得のある妻女は両眼を閉じ、自分の心の乱れだと思って普門品を唱えて心を鎮めた。目を開けると草が風になびくばかりだった。ところがその時、二三軒離れた医者の妻が急に気が狂い出した。
原典より
ところが、この時、二三軒離れた医者の妻が、にわかに気が狂い出した。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。