扇に歌を残した真崎稲荷の御出狐
どんな伝承か
隅田川のほとりに立つ真崎稲荷の社には、御出狐と呼ばれる狐が棲みついていた。茶屋の者が揚げ豆腐を手に、お出でお出でと呼ぶと、縁の下から姿を現して食べる。そんな日々が長く続いた。寛政四年ごろ、仙台の医師工藤某がこの狐を見ようと訪ねると、二十日ほど前に本国へ帰ったと聞かされる。本国はどこかと問えば、陸奥の松前だという。帰る前、狐は茶屋の娘に憑いて世話になった礼を述べ、暇乞いの形見を残すと言った。主人が扇を差し出すと、月は露に、露は草葉に宿るという一首を書き付けた。その筆跡は娘の手よりはるかに見事だったと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・大正・昭和初期)
博物学者・日野巌の古典的妖怪研究『動物妖怪譚』の前半(總論〜多爾具久)。