鉄砲の弾を手のひらで転がす狐女
どんな伝承か
昔、上諏訪の島崎に住むある侍が、夜明け前に起きて富部のシボリ沢へ狩りに出かけた。山小屋に入って夜が明けるのを待っていると、一人の女がやって来た。あたりは暗いのに、顔も衣装も目の覚めるほど美しく見える。さては狐のしわざと感づいて、手にした鉄砲で狙い撃ちにしたが、女はその弾を受け止め、手のひらにのせてころころ転がしながらにっこり笑った。さすがの侍も青くなり、夢中で小屋を飛び出して逃げ帰ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。