種油を取られた中内田の男
どんな伝承か
七十数年前のこと、信州松本在の中内田のある男が、家で作った菜種を背負って高出の油屋へ行った。その頃はどの家でも種油をとるために菜種を採り、入用のたび油屋へ持参して搾ってもらっていた。帰り道、種油をテンコに入れて提げてゆくと茶屋女が待っていて、さあさあと手を引いて茶屋へ引き入れた。近所の畑にいた者が見ていると、男は帯を解いて真裸になり、四つん這いで這ってゆく。あまりの格好に背をどやしつけると、気づいて狐に化かされたと分かった。そのときテンコの中の油は一滴もなかった。男は夜這いのつもりで、女の親に見つかりしくじったと思ったと語った。上手村の男も同じ場所で化かされ、着物のまま田川を這っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。