淡井浦の礁にひそむ十二単の女
どんな伝承か
著者は妖怪のなかでも十二単に緋の袴の上臈姿のものが好きだという。姫路城の刑部姫とともに思い出すのが伊豆新島の妖女である。島の丑寅の方角に淡井浦というところがあり、そこに怨念様と呼ばれて非常に恐れられている海中の礁がある。昔、ある船が錨をこの礁に引っかけ、取れないので一人が潜って外しに行った。すると錨に腰をかけて向こうを向いている者がある。退けと押し除けようとすると、その者はこちらを向いた。色の真っ蒼な、口が耳まで裂けた凄まじい女が十二単に緋の袴で睨みつけ、この錨は返さぬ、姿を見たと言ったが最後、汝の命は無いぞと言った。男は逃げ帰ったが、つい話をしてしまい、言葉が切れぬうちに倒れて息はなかった。
原典より
そこに怨念様と呼ばれて、非常に怖れられてゐる海中の礁がある。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。