成績を妬まれ狐持ちの子と罵られる
どんな伝承か
著者は大正九年、宍道から木次線加茂中駅の先にある神原村に、村一番で郡内一、二を争う大地主の三男として生まれた。小学五、六年の頃、学期末に成績を賞められて帰ろうとした著者は、嫉妬した級友に廊下の隅へ連れ込まれ、「えこひいきだ」「狐持ちの子、お前は狐を使っていい成績をとったんだろう」と罵られた。意味はよく分からぬまま、家に関わる不都合を言われたと直感し、著者は何も言えず逃げ帰った。これが狐持ち差別を初めて実感した体験だった。
原典より
さつきの、あの嬉しい気持はめちゃめちゃになつて、ちょうど、深い谷間にすいこまれて行くような悲しい気分につきおとされてしまいました。—— 憑きもの持ち迷信――その歴史的考察(改訂版)(速水保孝・1953年(昭和28年)初版・1956年(昭和31年)新版) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
憑きもの持ち迷信――その歴史的考察(改訂版)(速水保孝・1953年(昭和28年)初版・1956年(昭和31年)新版)
『憑きもの持ち迷信――その歴史的考察(改訂版)』は、速水保孝が昭和二十八年に著し、昭和三十一年に書き加えて新版とした研究書である。出雲・隠岐を中心とする山陰の狐持ちなど、家筋に結びつけられた憑きもの迷信を、法務局が扱った人権事件、藩の触書や村の古文書、加茂町の世帯調査から集めている。狐持ちの家に生まれた著者の体験から説き起こし、江戸中期以降の新興地主への反感に起こりを求める。柳田国男が序を寄せている。