床下から出た毛の生えた黒い手
どんな伝承か
昔、宇佐神領のある村に、作兵衛とおたつという貧しい百姓夫婦がいた。この地方には、泣く子を、大きな袋を背負った大男の子取りに連れて行かせるぞとおどす習わしがあった。夏の夕暮れ、おたつがイビラ餅をこねていると、四つの息子が蚊と空腹で泣きやまない。苛立ったおたつが、本当に子取りにやるから取りに来いと叫んだとたん、床下から毛の生えた黒い手がぬっと伸びてきた。とっさに餅をつかませると手は引っ込み、おたつは気を失った。帰った作兵衛は貧乏ゆえの幻だろうと嘆いたが、おたつは嘘で子をおどしたことへの戒めに違いないと思ったという。
原典より
床(ゆか)の下から、毛のはえた黒い手がニューッとさし出されたのをおたつは見たのです。—— 大分県の民話 第2集(土屋北彦・大分県の民話) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
大分県の民話 第2集(土屋北彦・大分県の民話)
『大分県の民話 第2集』は、土屋北彦による大分県の民話集である。日田の鬼大夫永季、府内の山弥長者、柞原八幡縁起、小豆研ぎ、百合若物語りなど、県内各地の長者譚・社寺の縁起・人柱・妖怪・英雄の伝説を、古代から江戸時代までの年号や現在の市町村名を添えて語り直す。三十二話を一話ずつ題を立てて並べ、多くは「です・ます」の語りで、方言による短い昔話も交じる。