秋葉参りで賑わった巣山の宿屋
どんな伝承か
遠江と三河を結ぶ峠を越え、沼を過ぎて野道を一里ほど行くと巣山の村に着く。よく実った田が広がっていて平地に出たように感じるが、四十八曲りの急坂を下ってはじめて高みにいたことが分かる。こんな山村にも宿屋が二軒あった。一軒は材木商いもしているらしく、もう一軒は朝鮮へ引っ越していき、立派な石垣の屋敷には桑が植えてある。かつて秋葉参りのころには一晩に三百人もの泊まり客があり、家の者は土間に夏の涼み台を持ち込んでその上で寝ることも珍しくなかったが、今では夢のようだと土地の人は語っていた。
原典より
一晩に三百人もの泊りが有って、家の者は土間に夏の涼臺を持込み、其上に寝ることも珍らしくは無かつたが、もう夢のやうだと土地の人が言って居る。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。