五葉山で異人にさらわれた娘
どんな伝承か
上郷村の民家の娘が栗を拾いに山へ入ったまま帰らず、家の者は死んだものとして娘の枕を形代に葬式を出した。二三年の後、同じ村の者が猟に出て五葉山の腰のあたりに入り、大きな岩が庇のように張り出して岩窟のようになった所で、思いがけずこの娘に逢った。娘は山で恐ろしい人にさらわれてここへ来た、逃げ帰ろうにも隙がないと語った。その人は世の人間と見えるが丈が極めて高く眼の色が凄い。子を幾人か産んだが、自分に似ないから我が子ではないと言って皆どこかへ持ち去ってしまうという。同じような人が四五人、一市間に一度か二度集まって来ると聞き、猟師は恐ろしくなって帰ったと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。