峠に独居した甘酒売りの翁
どんな伝承か
乙爺は数十年の間、山の中に独りで住んだ人である。よい家柄であったが、若い頃に財産を傾け失ってから世の中に物思いを絶ち、峠の上に小屋を掛け、甘酒を往来の人に売って暮らしを立てた。駄賃附の者たちはこの翁を父親のように思って親しんだ。少し収入の余りがあれば町へ下りて来て酒を飲む。赤い毛布で作った半纏を着て赤い頭巾をかぶり、酔えば町の中を躍って帰るが、巡査もとがめなかった。いよいよ老衰した後は旧里に帰り、あわれな暮らしをした。子どもはみな北海道へ行き、翁はただ一人であったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。