蛍の夜に子らが追い回した隣家の火の玉
どんな伝承か
語り手が七歳の梅雨の頃のことである。畦道の小川や草むらでは蛍が光るのに、その夜はさっぱりいない。土手に腰かけて家の方を見ていると、母が見舞いに行っている西の家の屋根の上から、風船玉より少し大きい火のかたまりがすうっと真っ直ぐに上った。火の玉はゆらゆらと波打ちながらこちらへ来る。男の子たちは箒で払い棒で突いたが、火の玉はするりと逃げ回り、石が当たったのか空高く舞い上がって元来た方へ戻り、西の家の屋根からすうっと中へ入ってしまった。ちょうどその頃、眠り込んでいた西の家の桃代が動き出し、「あーあ、びっくりした。子どもたちにいじめられてひどい目にあった」と言ったそうである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂』は、松谷みよ子が編んだ「現代民話考」の一冊である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』のアンケートへの回答や聞き書き、新聞・雑誌の記事から集めた、予知夢や死の知らせの夢、死者や神仏の夢告げ、死の前後に出る火の玉、生きている人から抜け出す魂の話を各地から収める。三章それぞれの冒頭に編者の論考「考」を置き、項目ごとに代表的な語りと、県別に並べた短い報告を話者・回答者・出典を添えて載せる。