河原坊で見た二人の若い僧
どんな伝承か
その夏のある日、宮沢賢治は早池峰山まで足を延ばし、麓の河原で野宿しようとした。そこは村の伝承で、かつて密教系の大きな寺院があったと伝わる河原坊の跡である。月光の下、斜面の石に横たわってうとうとしていると、山の暗い塊の中で何かがうごめき、荒々しい地響きが駆け下りてきた。起き上がろうとしても身体は金縛りにあったように動かない。突貫するような念仏の声が過ぎ、賢治の目には、黒い衣の袖を上げ、金の唐草模様をつけた神輿を一本の棒に吊るして川下へ軽々と担いでいく、二人の裸足の若い僧の姿が見えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。