ビッチン山を侮った富田太郎の一夜
どんな伝承か
戦後、パインの好景気に沸く石垣島で、登野城部落の若い農夫富田太郎は、幽霊を信じない豪胆者だった。ビッチン山近くの料亭で仲間と飲むうちその怪談になり、富田はわざと小便をしてきて平気だと威張った。午前一時、にわか雨に借りた傘を差して帰る途中、榕樹の下で雨宿りする美しい女を見つけ、じゃんけんに勝った富田が新川部落まで送ることになった。一の橋を渡った海辺の家で泡盛をふるまわれ、女を抱いて眠った。翌朝、新川部落の農夫が、海岸近くの共同墓地で開いた蛇の目傘のそばで眠りこける富田を見つけた。富田は逃げ帰って一週間寝込み、以後は夜に出歩かなくなったという。
原典より
朝早く新川部落の農夫が、野良につないである馬を、家につれ帰るために、海岸近くにさしかかったとき、共同墓地の中に、雨にぬれながら寝ている男を発見した。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。