奈落から現れる女形の霊
どんな伝承か
昭和三年の秋、東一番丁の角にあった芝居小屋森徳座での出来事である。夜業の看板描き村上は、花道で筆を執っていると舞台の方がほの明るくなり、廻り舞台の下の奈落から呻き声が漏れ、青白い燐火が漂うのを見て逃げ帰った。残った客呼びの高庄も、皿の割れるような音に目を覚まし、白い霧が藤娘の舞姿となって近づくのを見て気を失った。三日目に泊まった遠藤も、草履を引きずる音や舞台の軋みに肝を冷やす。三人から聞いた座主森政雄は、明治三十三年ごろ旅役者の女形が病を苦に奈落で首を吊った一件を明かした。手厚く供養し墓石を建て、舞台下を祓うと怪異は絶えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。