大震災の前日に池で跳ね回った魚
どんな伝承か
大正十二年九月一日の関東大震災には、いくつかの前触れがあったと伝えられる。その一つが蒲田での出来事である。松竹の蒲田撮影所に勤める男が、前日の八月三十一日に仕事が早く引けて家路をたどっていると、道ばたの小さな池で、水面いっぱいに魚が跳ねたり躍ったりしていた。釣り好きの男は撮影所へ取って返し、道具部屋から網を探し出すと、居合わせた友人と池の魚をすくい、四斗樽の半分ほどもの獲物を得た。その魚を肴に晩酌をして翌日の昼まで寝ていたところへ大地震が襲い、男は前日の魚の騒ぎが地震の前触れだったと思い当たったという。
原典より
また、蒲田の松竹撮影場に勤めている人が、その前日八月三十一日に、早仕舞いで家へ帰る途中、とある小さい池の水面一杯に、魚がパチャパチャ躍ったり跳ねたりしていた。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。