亡夫が夢で告げた戸棚裏の十五円
どんな伝承か
神田区松富町に住む松浦おぶんは四十二歳、前の年に夫を亡くし、毎日位牌に向かって念仏を唱えるのを何よりの慰めとしていた。ある夜、夢とも現ともつかぬうちに枕元へ亡夫が現れ、万一の用心にと十五円を戸棚の破れ目の裏へ隠してあるから、取り出して元手にせよと告げ、そのまま掻き消えた。翌朝おぶんが裏板を剥がしてみると、果たしてぼろ布に包まれた銀貨十五円が出てきた。夫の心遣いが嬉しく、同時に恋しさが募って、金包みを抱いたまま泣き暮らすうちに、彼女はいつしか心を病んでしまったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。