倒れた松を揉み続けた品川の按摩
どんな伝承か
品川の東海寺にあった古い松が、十月三日の大風で倒れ、十二月の半ばまでそのままになっていた。ある夜、見回りの警官がその脇を通ると、闇の中で人の話し声がする。曲者かと角灯を向けてみると、倒れた幹に腰を下ろした老人が、木を撫でながら独り言を続けていた。近づいて照らすと、南北の品川界隈を按摩鍼と呼び歩く盲人の福島金三郎で、倒木に按摩膏を貼り散らし、手の皮がむけるのも構わず一心に幹を揉んでいる。叱りつけると我に返ったが、正気を失った様子はない。十月にも同じことをしていたといい、狐狸に化かされたかと噂された。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。