九枚しかない莚を数える嫁の泣き声
どんな伝承か
宮城県亘理町北新町に侍屋敷があった。お定まりの嫁いびりの姑がいて、嫁に、ここに十枚莚がある、これに麦を干せ、と言いつけ、ひそかに十枚のうち一枚を隠しておいた。日が落ちて嫁が片付けはじめ、数えるとどうしても一枚足りない。おかしいと首をかしげながら幾度も数えたが九枚しかない。嫁は、申し訳ない、と言って井戸に飛び込み果てた。その夜以来、ガサガサと莚を敷く音がしてから、一枚、二枚と数える声が続き、九枚、ああ口惜しい、という嫁の泣き声がする。それでこの屋敷を九枚莚屋敷とよぶようになった。曇った夜はとくに莚の音が高く聞こえ、莚を敷いた場所も薄ぼんやりと見えるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。