根をつめる女流作家を諫める咳神
どんな伝承か
女流作家の只野真葛は滝沢馬琴に小説を見てもらったこともある。その真葛の夫が江戸詰から国許詰に変わったため、真葛も仙台へ移った。落ち着いた城下の屋敷に閉じ籠り、好きな文章を書き綴る日々である。夫が友人宅へ出かけたあと、その日も筆を執っていた。朝から雨が降り出し、日の落ちるのも早かった。屋敷には誰もいないはずなのに、ゴホンゴホンと咳をする声がする。真葛が誰かと問うと、座敷の隅から、おれは咳神だ、おまえがあまり根をつめているので体に悪いぞと注意しに来たのだ、と答えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。