濃霧の高速で車に飛び込んだ女の顔
どんな伝承か
ニッポン放送で深夜番組の録音を終えた僕は、親しいディレクターを送るためタクシーに同乗し、六月頃、窓を開けて中央自動車道を国立方面へ走っていた。三鷹のあたりで急に目の前が灰色になり、高速道路を斜めに横切る濃い霧が出た。道路脇に黒い着物、黒髪の女が立つのが見え、近づくと着物は消えて顔だけが角度を変えながらはっきりしてくる。真っ黒なおかっぱに真っ白な顔で、背景が透けていた。二十五メートルほどに近づくと、その顔がフロントガラスに飛び込み、僕とディレクターの間を通り抜けた。帰宅後、妻も後から入ってきた何かを見ていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。