麻布で答えた幼子の前世記憶
どんな伝承か
口をきくかきかないかという年頃の妹に、祖母が守りをしながら、前のおばあさんの頃はどこにいたのかと尋ねたところ、その子は「あざぶ」と答えたという。一家は東京の銀座に住んでいたので、それからこの叔母は、前の世では麻布にいたのだと言われて育った。やがて誰もがその話を忘れていたが、六人兄弟の末娘だった叔母は兄弟の中で最も早く世を去り、通夜の席で誰かが思い出して話題にした。結婚から数年での死で、その嫁ぎ先というのが麻布だったのである。前の世は麻布にいたと自ら口にした人が麻布で生涯を終えたと、しばらく不思議な巡り合わせだと噂になった。
原典より
私の叔母が先日(昭和五十七年・註/松谷)亡くなりまして、入院の初め頃は、死んだ者の顔が並んで崖の下に居て「来るな、来るな」と言っていて、自分は崖の上で必死につかまっていたと、夢の中の話をしていました。—— 現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。