家を通り抜けた金比羅山の神力石
どんな伝承か
寛政六年の五月、鳴門の木津にある金比羅山が何日も鳴り響き、人々は生きた心地もしなかった。長谷寺の僧が金比羅権現の社前で祈り続けて七日ほどたったころ、社の東の山にそびえていた大石がひとりでに抜け落ち、ふもとの家の裏から飛び込んで表の道へ抜けた。家では戸棚の下に赤ん坊が寝ていたが、石は上の戸棚だけを跳ね飛ばし、赤ん坊も下の戸棚も無傷だった。柱の間は石と同じほどの幅しかなかったので皆が不思議がり、権現の加護と喜んで、石を社の門のそばに据えたという。
原典より
寛政六年の五月、鳴門市木津の金比羅山が数日にわたって鳴動したので、人々は生きた心地もなかった。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。