枕に残された高木の印形と母子絞殺
どんな伝承か
十二月二十五日の夜、香西村の大根に賊が現れた。大根は街道に沿った所で、一里余り西には佐原町があり、道は八日市場や多古町への往還になっている。駐在所からちょっと離れた所に一軒の掛茶屋があり、高橋という三十七になる主婦が、十一歳のおたつという女の子を養育しながら商売をしていた。二十六日の朝八時になっても起きないので、石毛とくの一件もあって心配した隣家の者が裏口から起こしに入ると、母子とも同じ場所で絞殺されていた。枕の上には「高木」と彫った新しい印形が載っていた。解剖の結果は緊縛による窒息死で、着物が五寸ほど切り裂かれ三円ほどの金が失われていた。
原典より
そして、其の印形には高木と彫刻してあつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。