母の臨終に手を握り返されて抜けた体
どんな伝承か
福岡市の斉藤勝一さんは昭和四十三年、肝臓ガンで三か月入院していた母を看取ったときに体外離脱を経験した。最期の日、母は二度呼吸が止まり、二度目は医師も看護婦もいなかったので、斉藤さんが見よう見まねで人工呼吸をして息を吹き返させた。だが母は顔をゆがめて苦しみ、余計な苦しみを与えたと自分を責めた。十分後に再び呼吸が止まり、死なせたくない思いとこれ以上苦しめたくない思いに引き裂かれて母の手を強く握ると、母も最後の力で握り返した。その直後、全身の毛が逆立ち、腰から頭へ強い流れが走って、頭頂の後ろから自分が抜け出し、天井の隅からベッドの母と取り囲む家族四人を見ていたという。ほんの十秒ほどの短い間だったが、その記憶はいまも鮮明だという。
原典より
そして、頭頂部の後寄りの部分から、自分自身が抜け出していったのです。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。