締め技で落ちて見た花の平原
どんな伝承か
東京大田区の笠原弘は五十一歳。高校二年のとき柔道の地区大会に出て、締め技を決められ落ちた。そのときの光景を彼はこう語る。広々とした大平原に赤や青、黄や緑の草花が一面に咲きつくし、その美しさは言葉にも筆にも尽くせない。あたりはまばゆい昼光色に満たされ、彼方はかすかに霞んでいたので、目の前の花はいっそう鮮やかに見えた。その中に自分がただ一人いた。やがて遠くからピアノの最も高い音が長い間をおいて鳴りはじめ、次第に間隔が縮んで高さを増し、耳元ではじけるような音になったとき、師にカツを入れられて我に返ったという。締め技は頸動脈を締めて脳への血流を妨げるので、臨死に近い状態が作られるのだと著者は説明する。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。