館に籠もり消えた武士の妻
どんな伝承か
泉鏡花「妖怪年代記」で語られる、旗野の館のさらに前の住人の話。以前この館に住んでいた武士は過ちを犯して改易され、国境の外へ追放された。ところがその妻は屋敷を明け渡すことを拒み、いつまでもここに留まると言って居間に閉じこもり、内から錠を下ろした。その後、妻の姿はどこにも見えなくなったという。後に移り住んだ旗野家では、めでたいことがあるたびに女のすすり泣く声が聞こえ、不幸があると心地よさそうに笑う声が聞こえたと伝えられる。この館がのちの松川私塾である。
原典より
その後に移り住んだ旗野家に吉事があるたびに、啾々たる婦人の泣き声が聞え、不詳があれば、心地よさそうに笑う声が聞えるというのであった。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。