積み重なる蛇の中から出た鏡
どんな伝承か
文政九年六月二十五日、雨上がりの午後一時頃、江戸小石川の三百坂にある中袋某の屋敷の前で、十五匹ばかりの蛇が桶の胴のように積み重なっていた。高さは一尺あまり、差し渡しも一尺二、三寸で、蛇は三方から頭をそろえて内側へ向けている。あまりに奇怪なので人だかりができた。そこへ田安家に仕える高橋百介の子で十四歳の千吉が来て、こう蛇が重なる中には必ず宝があると聞いていると言い、袖をまくって肘まで腕を差し入れ、鏡を一つ取り出した。篆文で元祐通宝とある鏡で、蛇はたちまち散り逃げた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。