祭りの晩に消えた子と木の枝の着物
どんな伝承か
信州の松本の近在では、秋祭りが近づくと若衆が毎晩集まって村芝居や踊りの稽古に励み、若衆芝居は村の人気を集めていた。ある年の秋、上手村から隣村へ嫁いだ女が五つほどの子を連れて里の祭りに招かれ、芝居の晩、先に行きたいとせがむ子をお宮へ向かわせ、自分は小用を済ませて後を追った。ところがその時にはもう子の姿はどこにもなく、村じゅうで捜しても見つからなかった。翌年の十月、東山で冬の飼い葉を刈っていた若衆が、高い木の枝に掛かったぼろぼろの子どもの着物を見つけた。付け紐は結んだままで、天狗が気に入らず中身を抜いて食べたのだと村人は言った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。