便所で消え二十年後に戻った市兵衛
どんな伝承か
にぎやかな商家町であった江州八幡で、寛延の頃、裕福な商人松前屋市兵衛が一族から迎えた妻と円満に暮らしていた。ある夜、便所へ行くと言って下女に灯を持たせたまま戻らず、姿を消してしまう。妻は嫉妬してのぞきに行ったが下女がぼんやり立つのみで市兵衛は消えていた。跡目のない家では妻に入夫を迎えさせたが、二十年ほど後、便所から呼ぶ声がして、あの時のままの姿で市兵衛が座っているのが見つかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。