金手村の家を揺らした怪猫
どんな伝承か
正保四年、相模の小田原近在、金手村での出来事という。小田原藩の外科医緒方梅庵の子梅軒は、十六歳で祖母に付き添い金手に住んでいた。四月に祖母が中風で倒れると、二十年余り飼われた老猫が病人の喉笛を狙ったため、梅軒は脇差で斬りつけたが取り逃がした。その夜から家は地震のように揺れ続け、多い日には一昼夜に三百数十度も動いた。行者の祈禱も効かず、猫は天井から石や瓦を落とし、行灯を吊り上げ、雪隠で梅軒に飛びかかった。半年近く不眠で耐えた梅軒は九月、押入れに追い込んだ猫を家来とともに槍と脇差で仕留めた。猫は七尺五寸もあり、背には家を揺すった跡らしい禿げがあった。城主稲葉正則は梅軒を賞したという。
原典より
仇をしない前も大きな猫であつたが、その時は七尺五寸の大猫となつてゐた。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。