墓の中で生まれた子と衣の文
どんな伝承か
額田郡本宿村、いまの岡崎市にむかし老婆が住んでいた。一人娘が産み月になったところで急な病に死んでしまい、老婆は身も世もなく悲しんで、日も夜も花籠の観世音に参り、娘の後世を弔っていた。ある日の参詣の帰り道、どこからともなく一人の老僧が現れ、着ている衣の袖から一通の文を老婆の前に落として立ち去った。拾って開いてみると、葬りを済ませたはずの墓のなかで娘が安産をしたと記してある。さっそく娘の墓を掘り返してみると、玉のような女の子が元気に出てきた。それからこの地を衣文の里というのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。