奈良木辻の十能で客を招く
どんな伝承か
杓子を倡家青楼の客引き手段に用いる風は、東西で軌を一にしている。紀州田辺では、客の少ない夜に人知れず杓子を懐中して四辻へ行き、これで四方を招けば客が来ると信じられていた。京都の某所でも、杓子で三度招けば待人が来るという。山田角人君が奈良の木辻で実見したのは杓子ではなく十能であったが、やはり街頭に出て客を誘う呪術にこれを利用していた。東京吉原の一例はきわめて露骨で、四辻に携え行って四方を招くという杓子には眼鼻が描いてあり、術者はこれで前を三遍叩いたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。