湯のたぎるマヨヒガに迷い込んだ婿
どんな伝承か
金沢村は白望の麓にあり、上閉伊郡の内でもことに山奥で、往来する者も少ない。六七年前、この村から栃内村の山崎のある家に娘の婿を取った。この婿が実家に行こうとして山路に迷い、またあのマヨヒガに行き当たった。家の有様も牛馬鶏の多いことも、花が紅白に咲いていたことも、すべて前の話の通りである。玄関に入ると膳椀を取り出した室があり、座敷には鉄瓶の湯がたぎって今まさに茶を煮ようとするように見え、便所のあたりに人が立っているようにも思われた。茫然とし、後には次第に恐ろしくなって引き返し、ついに小国の村里に出た。山崎の者は長者になろうと大勢で探しに入ったが、空しく帰って来たという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。