金沢浅野町の青年天井に落つ
どんな伝承か
石川県金沢市の浅野町で明治十年頃に起こった出来事である。徳田秋声の家の隣家に住む二十歳ばかりの青年が、ちょうど徳田家の高窓の外にあった地境の大きな柿の樹の下に下駄を脱ぎ捨てたまま行方不明になった。捜しあぐねていると、不意に天井裏にどしんと物の落ちた音がした。徳田の兄が頼まれて上がってみると青年が横たわっていたので、背負って降ろしてやった。木の葉を噛んでいたと見えて口の端が真っ青だった。半分正気づいてから仔細を問うと、大きな親爺に連れられて諸所方々を歩き御馳走を食べて来た、また行かねばならぬと言って駆け出そうとしたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。