蛇となった中野長者の娘
どんな伝承か
紀州から流れてきた鈴木九郎は中野に住みつき、馬市での儲けを浅草の観音に納めてから運が開け、十二社に熊野神社を建てて中野長者と呼ばれる身代になった。ただ、蓄えた金銀の隠し場所を人に知られまいとして、荷を運ばせた下男を橋の上で次々と斬り捨てたという。行きに見えた人影が帰りに見えないので、里人はその橋を姿見ずの橋と呼んだ。報いはたちまち現れる。一人娘の婚礼の夜、熊野の森から黒雲がわき起こって雷雨となり、娘は蛇の姿に変じて十二社の池へ飛び込んでしまった。九郎は禅僧に懺悔し、池のほとりでの祈祷によって娘はもとの姿に戻ったと伝わる。のちに九郎は髪を下ろし、屋敷を壊して成願寺を建てた。
原典より
場所 青梅街道辺の淀橋 十二社の熊野神社とその前の道路の西側一帯時代 室町時代応永(一三九四 一四二七)のころ日は、草原から出て草原に入る武蔵野に、東北地方を流浪の末、中野本町の成願寺付近に居を定めた人に、鈴木九郎という…—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。