嵐とともに帰る山婆
どんな伝承か
岩手県上閉伊郡松崎村登戸の茂助の家は今日でもかなりの豪家である。昔この家の娘が、秋の頃であったか、裏の梨の木の下に草履を脱いで置いたまま行方不明になった。当座は大騒ぎで探したが皆目知れぬままに歳月が過ぎた。しかし幾十年目かの大嵐の日、その娘はひどく怪奇な山婆となり、家の人たちに逢いたくて来たと言って、わさわさと音を立てて現れた。肌には苔が生え、指の爪はいずれも二、三寸に伸びていた。以後、毎年同じ季節にキノコやブドウの干物を土産に訪れ、家では礼返しに餅を搗いて持たせた。だが往還のたびに数日の大暴風があるので村中が難渋し、ついに茂助の家は巫女山伏を頼み、青笹村との境に石塔を立てて封じてしまった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。