花京院通の四つ辻に燃える跡なき火
どんな伝承か
ある夜更け、雨の中を菊田治助という者が東照宮御総宮の傍らを通りかかると、花京院通の四つ辻に燃えている杭が無数にまき散らされ、燃え上がっていた。その辻の一角の餅屋が投げ出した燃えさしだろうと思ってそのまま帰宅したが、あとから考えるとどうも不思議なので、翌朝はやくそこを調べてみると、燃えさしの薪どころか炭片さえ落ちていなかったという。またその北の横丁の東角のあたりでは、小路の幅いっぱいに高さ一丈ばかりの巨石の柱が通行をふさいでいた。訝しく思った喜兵衛という者が抜き打ちに切ると手応えがあり、翌朝行ってみると辻の角の石が三寸ばかり切り込まれていて驚いたという。これはすべて狐の仕業だと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。