湯けむりに伸びる坊主頭の影
どんな伝承か
ノリコシは岩手の和賀地方に出現するといわれている。花巻温泉の旅籠で旅びとが湯ぶねに浸っていると、人影がちらりと硝子戸に映った。先客は自分ひとりが旅客だと思っていたが、硝子戸の開く音を確かに耳にした。湯けむりでけむっているので見えないのだと思っていると、湯けむりの中に小さな坊主頭の影が浮かび出た。子どもかと見ているうちに、その人影がぐんぐん伸びていき、天井いっぱいに影が拡がった。先客は驚いて湯屋の窓を開けた。湯けむりが窓から流れると、その影も湯けむりといっしょに消え去ったそうである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。