大雪の日に傘を忘れた亡妻
どんな伝承か
文化年間のこと。仙台藩士貝塚靖右衛門は役者にしてもよい男で、長く江戸詰であった。妻女は茂庭家の腰元をしていた美女で、取り持たれて夫婦となった。靖右衛門が国許詰となり仙台城下へ移って三年目の秋の初め、妻女は胸を病んで亡くなった。靖右衛門はやつれ果て、甥に家を譲って寺の食客となり、僧と詩文を綴って日を送った。久しぶりの大雪の日、寺に傘をさして妻女が訪ねてきた。むろん亡霊である。その姿は美しかったと僧は記している。離れでしばらく籠ったのち亡霊は帰り、雪が上がっていたので傘を忘れていった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。