庇護者に囲まれた熊の最期
どんな伝承か
警察は捜索を続けたが熊は見つからなかった。消防手の多田幾四郎や消防部長の山倉長四郎ら、熊をかばう者たちが捜索の網を熊に知らせていたからである。九月二十五日に山狩りは打ち切られ、二十九日には熊が狙っていた忠治と寅松が村を出た。目当てを失った熊は、その夜、かくまっていた者たちの意見に従って自ら命を絶ち、彼らは遺体を運んで頸を切った自殺に見せかけた。のちに自殺幇助や犯人隠避の罪で庇護者たちが起訴された。翌朝その知らせが伝わり、四十二日にわたって世間を騒がせた事件は幕を閉じた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。