懐妊を告げた女狐に憑かれた婿
どんな伝承か
文化七年の夏から秋のころ、日本橋左内町に奇事があると人が語った。その町で最中饅頭を商う菓子屋があり、娘はまだ十二、三歳で外から婿を取ったが、まだ夫婦にはなっていなかった。婿は実直な質で一間に一人で寝させていたが、夜が更けるとその部屋で語り合う声が聞こえ、聞きつける者も出た。母が問うと婿は覚えがないと答える。ところが婿に狐が憑いて言うには、自分は女狐で、この息子と縁があって来た、懐妊しているので子を産めばすぐ離れる、その子をどうか育ててほしいと。母が外聞が悪いと激しく断ると、その後、婿も母も患い出し、母がまっさきに亡くなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。