味噌甕の中身だけ食べた人狐
どんな伝承か
松江市北田町に、人狐持ちの風説のある山根氏の家があった。その右隣の村田氏方で、台所の戸棚の味噌壺の蓋を取ってみると、いっぱいに満たしてあった味噌の上面に貼ってあった白紙の中央に、二銭銅貨ほどの穴が空いていた。奇妙に思って紙を剥ぐと、穴は味噌の下層へ通じている。子供が竹でも突き込んだのかと思い、杓子を入れて味噌を掬おうとすると、天井でも押し落としたように味噌が底の方へ落ち込んだので驚かされた。よく調べると隣の人狐の仕業に相違なく、上層だけを残して内部は全部食い取られていたのだと知れた。
原典より
能く檢べて見ると、隣りの人狐のわざに相違なく、味噌の上層だけ残して、内部は全部喰ひ取つてあつたのだと知れた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。