死の直前に菩提寺を訪ねた豪家の主人
どんな伝承か
遠野町のある豪家の主人が大病で生死の境をさまよっていたころ、ふと菩提寺を訪ねてきた。和尚はていねいにもてなして茶を勧め、世間話をしたが、帰るそぶりにどこか不審なところがあったので小僧に後をつけさせた。主人は門を出て家の方へ向かい、町の角を曲がったと見えたところで姿が見えなくなった。道で会った人々にはふだんどおりきちんと挨拶していたが、その夜のうちに亡くなった。寺で客の茶碗を片付けると、置いたあたりの畳の合わせ目にお茶がすっかりこぼしてあり、やがて主人の死を知らせる使いが来たという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。