大木の梢を覆う赤衣の僧形
どんな伝承か
同じ猟師が、ある夜山中で小屋を作る暇もなく、とある大木の下に寄り、魔除けのサンヅ縄を自分と木のまわりに三重に引きめぐらして、鉄砲を堅く抱えてまどろんだ。夜更けに物音がするので気づくと、大きな僧形の者が赤い衣を羽のように羽ばたきさせ、その木の梢に覆いかかっていた。すわとばかり銃を撃ち放すと、やがてまた羽ばたきをして中空を飛び返った。この時の恐ろしさは世の常ではなかった。前後三度までこうした不思議に遭い、そのたびに鉄砲を止めようと心に誓い氏神に願を掛けたが、やがて思い返し、年を取るまで猟人の業を棄てられなかったとよく人に語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。