二つ森山の御幣餅忘れと山荒れ
どんな伝承か
美濃苗木領の二つ森山では、文政七、八年の頃に木を伐り出す必要があり、十月七日に山入りして御幣餅をこしらえたまではよかったが、山の神に上げるのを忘れて自分たちで皆食べてしまった。するとたちまち山が荒れ出し、その夜は例の天狗倒しといって大木を伐り倒す音が盛んに響いた。気づいて再び餅をこしらえて詫びたので、ようやく無事に済んだという。この地方の狗賓餅には決まった慣習があり、村中に触れて老若男女が山中に集まり、飯を硬く炊いて握り串に刺し、焼いて味噌を付け、初穂を五、六本木の葉に載せて清い所に供えてから一同が食べる。この餅を作ると天狗が集まると言って村内の家では一切焼かなかったとある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。