餌の礼に焚木を運んだ屋敷の古狸
どんな伝承か
明治十年二月、築地二丁目五番地に住む華族松平某の屋敷では、庭に棲む古狸が時々出て来て座敷の道具や勝手道具を庭へ持ち出すので、いたずら除けに洋犬を一匹飼うことにした。さすがの古狸も怖れをなして姿を見せなくなったが、その洋犬が牝で懐妊し三階から下りて来なくなったのを嗅ぎ知ると、また出て来ていたずらを始めた。屋敷の者は打ち殺そうと相談したが、主人は腹が空いて出て来るのだろうと止め、毎夜犬の余り物を与えるよう命じた。以来、下女が残り物を皿に載せて出しておくと、狸は礼のつもりか毎朝欠かさず沢山の焚木や鉋屑を持って来たという。
原典より
といったので、その後は下女が毎夜残りの食物を皿に乗せて出して置くと、狸も恩返しのお礼のためか、毎朝欠かさず沢山の焚木や鉋屑を持って来たという。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。