斧入れの日に血を流した杉
どんな伝承か
明治の初め頃、羽黒荒沢の杉林が伐採されることになり、狩川の佐吉という山師が払下げを受けた。その斧入れの日、最初に斧を打ち込んだ木からたらたらと血が流れ出し、居合わせた人々は顔色を失って逃げ出したという。二、三年の後、古峰が原講の代参のくじに当たった佐吉が古峰神社に参り、社務所に泊まって風呂に入っていると、風呂番の男が「荒沢の天狗だでば」と名乗った。顔の色は紅殻いろ、眼はぎょろりと光り、鼻が高い。木を伐られて荒沢にいられなくなったのだと語る間に、佐吉は風呂桶ごと宙に吊し上げられ、いつか気を失っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。