坂部の旧家が編んだ熊谷家傳記
どんな伝承か
信州の最南端、天竜川右岸の三河に接した坂部という小さな村に、熊谷という旧家のやや衰えかけているのがあった。二百年足らず前のその家の主人に学問の衆に秀でた者があり、自ら父祖歴代の手記を編輯したと称して数巻の大冊にまとめたのが『熊谷家伝記』である。久しく名を伝えた珍書で、前年これを謄写版にした篤志家があり、最近は活版にもなった。二百年以前のこの地域の口碑類を年代順に排列したもののようで、熊谷一家の盛衰のみならず、この山間一帯の土豪地侍の生活が窺い知られるのである。
原典より
信州の最南端、天龍川右岸の三河に接した坂部といふ小さな村に、熊谷といふ舊家のや、衰へかけて居るのがあつた。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。