月夜の雲壁に寝ていた蒼い顔
どんな伝承か
栃内の字野崎に前川萬吉という人がいた。二三年前に三十余で亡くなった。この人も死ぬ二三年前、夜遊びに出て帰り、門口から回り縁に沿ってその角まで来た時、六月の月夜のことであったが、何心なく雲壁を見ると、ひたと壁に付いて寝ている男がいた。色の蒼ざめた顔であったという。大いに驚いて病んだが、これも何の前兆でもなかった。田尻家の息子丸吉がこの人と親しく、その話を聞いたのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。