山の神の逢瀬を邪魔した鳥御前
どんな伝承か
遠野の町に山々のことに明るい人がいた。もとは南部男爵家の鷹匠で、綽名を鳥御前という。年を取ってから茸採りに連れと出かけ、遠野の町と猿ヶ石川を隔てた向山から、綾織村の続石という珍しい岩のある所の少し上の山に入った。二人が別れた後、鳥御前が一人で登っていくと、大きな岩の陰で赭い顔の男と女が話しているのに出会った。二人は手を広げて押し戻すように制したが、構わず行くと女は男の胸に縋った。人間ではあるまいと思いながら戯れに切刃を抜いて打ちかかると、赭い男に蹴られたと思う間もなく前後を知らなくなった。連れに助けられて帰り、山伏のケンコゥ院は山の神の遊ぶ所を邪魔した祟りだといい、三日ほど病んで亡くなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。